《特集》相続で失敗する人をゼロに
【目次】
1. 事業承継とは何のことか
2. たわけ者
3. 相続の専門家
4. 専門家の見分け方
5. 相続の総合設計・全体構造
6. 戦略的目標
7. 戦術的目標
8. 戦術的手段
9. 相続税の対策
10. 相続税対策の全体像
11. 専門家の理想像
1. 事業承継とは何のことか
事業承継の最大課題は、税金対策ではありません。最大の課題は、後継者の選択と育成です。
凡庸な子をいかに一人前の経営者に育てあげるか。
素人に事業承継に関する知識を詰め込んでもいけません。生兵法は大怪我のもと。
経営者に必要なことは多様な専門家を使いこなす技であると考えます。
2. たわけ者
先代から受け継いだ大切な土地、人生の大半を費やして貯めた預金、一瞬のうちにこれらを持ち去ってしまうのが「相続税」です。最高税率は55%、所得税と併せると、江戸時代の年貢以上の過酷さです(四公六民)。しかも今後、資産に対する課税は着々と進んでいくと予想されます。
それは国家の「財政危機」を回避するには、増税するしかないというのが現政府の見解たからです。加えて富裕層の資産に対する課税には、「反対」する勢力も少なく、最も増税しやすい分野です。
時代劇でよく「たわけ者」というセリフがでてきます。これは、本来「田分け」と書くそうで、むやみに田んぼを分けては、家業が途絶えてしまうと警笛を鳴らした言葉だそうです。
相続税も国家に対する財産分けと同じことです。
国民全てが無策でいては、社会を支える様々な事業が消滅し、ひいては「国力の低下」を招きます。実は、政府もそこのところは心得ていて、相続税対策に活用できる制度や政策をいろいろ用意しています。ただ、それを、余すことなく知り、選択を誤らず、手順を誤らず、進めていくのは、なかなか大変な事業です。
ちなみに、相続税対策は、「生前」に行ってこそ効果があります。申告期限もあり、死後に行えることは本当に少ないのです。
本サービスも生前に行う対策を中心に扱っています。揉めない=生前に行ってこそ効果があります。
3. 相続の専門家
相続税対策といえば、真っ先に思い浮かぶのが「税理士」です。ただ、税理士にも、お医者様と同じく「専門分野」があります。相続の専門でない税理士に、相続の仕事を依頼するのは、内科のお医者様に「外科手術」をお願いするのとおなじようなものです。 とはいえ、相続専門の税理士は、全国でも100人を切ると言われています。業務上の過失に、多額の損害賠償が課せられる上に、相続業務には、広範な専門知識と経験が必要であることが、その要因の一つに挙げられます。
確かに、相続全般を理解したうえで、相続税対策ができるようになるには、少なくとも、税理士試験(相続税)と司法試験を通過する程度の基礎知識が必要であり、さらにこれに加えて、10倍の苦しい実務経験が必要と考えられます。
4. 専門家の見分け方
自分の顧問税理士に対し、相続の仕事が十分にこなせるかどうかを尋ねることは、なかなか勇気のいることです。
そこで、見分けるポイントを少々。
つぎの要件の1つにでも当てはまる場合は、他の税理士にもご相談されることをお勧めいたします。
① 相談してから1ヶ月以上具体的な提案がでてこない税理士
② 税金対策だけが先行する税理士(税金以外の専門知識がない)
③ 相続税以外の税務を専門としている税理士(企業会計の専門家など)
皆さま、企業が生死を賭けた外科手術をする際に、どんなお医者様にお任せしたいでしょうか。最近では同時に「複数」の専門家の意見を聞くことが、一般化してきました。マスコミは、これを「セカンド・オピニオン」の活用と呼んでいます。
複雑化した社会の中で、生活を守っていくために必要な風潮だと思えます。
5. 相続の総合設計・全体構造
相続に関して税理士がよく犯しがちな過ちは、税金の対策を一人歩きさせてしまうことがあります。顧客満足度の高い相続を実現するためには、まず初めに「相続の総合設計」が策定されなければなりません。税金対策は、この総合設計の一環として、進められる必要があります。(全体最適の概念) 同じようなことは、相続を扱う弁護士や司法書士の方にも言えます。誰しも無意識のうちに、自分のリングで得意な技を出したくなるものです。
しかしそれは外科医が、「とりあえず切ってみましょう」というのと同じことです。
では、ご相談者の意思を的確に汲み取り、かつ、間違った手段の選択を防ぎ、かつ、協働者に分かりやすく説明を行うには、どうすればいいでしょうか。
それが、相続全体を体系的に捉えるやり方です。
相続税の総合設計を策定するやり方です。
「相続の総合設計」は、次の3つの段階から構成してみるのがいいと考えられます。それは、 戦略的目標(大きな価値観、・目的)、戦術的目標、戦術的手段の3段階です。
例えば、ある経営者が、相続を考えるにあたり、相続争いの抑止や税金の対策は、可能な限りでよい。重要なのは、自分が創業した事業が、死後も存続することであると考えたとします。
このように、大きな価値観を選択する場面が、戦略的目標の策定です。(日頃の言動から感じること、センシティブな内容です)
つぎに、この経営者は「事業承継」を成功させるためには、長男が後を継ぐという概念が必ずしも正しいわけでありません。そこで、① 相続人の中から経営者適格のある者を選び、② その者に経営資源を集中的に移転することが重要である、
と考えたとします。
このように「戦略的目標」を実現するために、マイルストーン的に細分化された複数の目標を選択していく場面が、「戦術的目標」の策定です。
さらに、この経営者は、経営適格者を使命するための手段として、「家族信託」を活用することとしました。
① まず、長男と信託契約を締結し、試験的に資産と債務を委ねる。
② そして、もし力量がなければ、信託契約を解除する。
③ そして、つぎは次男の試験に移行する。
④ 増加した税金は当然必要なコストと考える、というものです。
このように、多くの手段の中から、適切な手段を選択していく場面が、「戦術的手段」の策定です。
6. 戦略的目標
戦略的目標は、つぎの4つの価値観から構成されると考えている。
それは
①事業の承継
②相続争いの抑止
③税金の削減
④納税資金の創出
の4つです。
ここでも体系的思考が重要です。それはこの4つの価値観は、価値の衝突を起こすことがあるからです。体系的思考がないと、良かれと思い用いた手段が、知らぬ間に最も大事な価値観を阻害していた、という結果になりかねません。 ご相談者にとって、どの価値観が、最も優先する価値観か、設計段階で充分に汲み取ることが必要です。
今少し、価値の衝突の例を追ってみましょう。例えば、事業承継を成功させるためには、跡継ぎの方に、経営資源を集中させることが必要になってきます。ここでは、少なからず、不公平の原理が働いています。
しかし、他方、相続争いの抑止に力点を置くときは、公平の原理が強く働かなくてはなりません。これが価値の衝突の一例です。
さらにもう1つ。住宅業者が、税金削減を謳い、賃貸住宅の新築を勧めることがあります。 確かに、一定程度の相続税の削減は見込めます。しかし、この場合、30年後の経営や事象承継者はどうなるでしょうか。円滑に進むはずだった事業の承継や相続争いの抑止が暗礁に乗り上げる場合もあります。
このように、価値の衝突は、様々な場面で生じてきます。価値の衝突に備え、最も優先する価値観をあらかじめ選択しておくことは、相続の総合設計として非常に重要なことです。
ちなみに、最優先の価値観に選択されなかった残りの価値観は、つぎの戦術的目標に落とし込むか、あるいは目標から削除します。ただ初期段階は、ご相談者の意思も明確ではないのが通常ですから、当面は4つの優先度合いを数値で表現しておくのも良い方法です。
7. 戦術的目標
戦術的目標は、どのように策定されるのでしょうか。戦術的目標ごとに、若干の説明をします。大きくイメージをもって頂くためのもの、知識のカタログではありません。
まずは、事業の承継の場合。 一般的には、承継適格者、物的資源の承継、人的資源の承継、債務の承継、承継後の関与権限などについて目標が設定されます。ときには、氏名の承継、経営哲学の承継が問題となることもあります。遅れて取りかかると、価値観が大切にされなくなります。
相続争いの抑止。
この場合は、分配対象者、資産の分配、移転時期、債務の移転、分配後の運用方法の制約、巻き戻し女権、老後の待遇、介護者、祭祀の主催者、といった事項について目標が設定されます。
中心的な資産は生きている間に。
※遺言書⇒本当に子供たちが納得するか⇒墓参りしなくなる。また、内縁者・愛人・非嫡出子の処遇が問題となる事例もあります。
税金の削減。
この点の詳細は次章に譲りますが、とくにここで触れておきたいことです。相続税は遺産分割を一定期間に終わらなければ、配偶者控除などの大きな特例を受けることができません。これは、納税資金の創出に多大な影響を与えます。このようなことから、税金の削減の目標設定には紛争の防止が含まれます。
納税資金の創出。
収益の向上、資金の借入、資産の処分に分けることができます。収益の向上は、資産の組み換え、事業再生など、経営技術に関する事項について、目標設定を行い、収益の向上がどうしても見込めない場合、資金の借入や資産の処分が検討さます。 物納や延納や売却もその方法です。
8. 戦術的手段
戦術的手段とは、目標を達成するための道具にあたるものです。医療で言えば、薬やメスに当たります。
ただ、1つの薬が何にでも効く訳ではなく、むしろ劇薬である場合も多い。それは、相続税対策でも同じです。むやみに1つの薬を売り歩いてはいけません。どのような道具を選択すればよいかは、目標だけでなく、その置かれた環境にも左右されます。治療の選択が患者さんの体力に影響されるのと同じです。
例えば、法人に関わる事項はその法人の種類、持分制度、創業事業か否か、あるいは収支ベースで黒字かどうか、資産ベースではどうか、などが影響してきます。
そしてもう1つ。
選択する道具の見きわめと用いる順番が重要です。手術と麻酔薬の順番は決して間違えてはいけません。
9. 相続税の対策
相続税対策の特徴の触れていきたいと思います。相続税対策の特殊性は、相続税法が「簡素」であることに起因します。相続税法の条文は71条、民法が1044条、所得税法が243条、法人税法が164条。条文数だけでは一概には言えませんが、相続税法は他の法律と比較して、簡素であるという点は否めません。例えば、財産の評価額は「時価」という簡単な一言で律せられている。(相続税法第22条)
環境変化の激しい現代社会において、人生の締めくくりである遺産に対し、このような簡素な文言で、大きな課税を済ませようとするのは、やや無理があります。
ただ課税庁も、現場が混乱しないよう、かつ公平な課税を目指して、現場職員に対して、「財産評価基本通達」という内部文書を出しています。相続が専門でない税理士は、あまり時間を割けないので、この通達に従って申告を行います。
しかし、相続の専門税理士は違います。独自で法の趣旨を考え、独自に「時価」を割り出します。「財産評価基本通達」の現実に合わない部分に、堂々と対峙できる税理士が本物です。最後まで、課税庁と見解が合わない場合、司法判断を仰ぎます。
これに対し、相続の専門家を謳う方であっても、個々の案件に深入りせずに、あっさりと簡単に行えるサービスだけをして、申告の件数を誇りとしている税理士もいます。ご相談者の満足度は浅いかもしれません。
10. 相続税対策の全体像
ここでは、相続税対策を体系的に捉えてみます。戦術的手段の組み合わや順序立てを理論的に整理できたり、あるいは、新たな戦術的手段を編み出せるかもしれません。
まずは、相続税対策を「静的手段」と「動的手段」に類型化して捉えてみましょう。「静的手段」は、資産の状態や性質に手を加えずに、税金を削減していこうという方法です。不動産や株式の評価を、「財産評価基本通達」を駆使し、あるいは、それ以外の減価要因を探ります。不動産では、減価要因を探すために、「現場調査」を行います。
それには、「物的瑕疵」と「法的制約」があります。時間がかかりますが、効果的な手法です。「物的瑕疵」は、周辺環境を含め、丁寧に調査します。間口、幅員、不整形、勾配、土壌汚染、高圧線、騒音、悪臭、墓地、水路、遺跡など。 「法的制約」は法務局、市役所(歳計画課、建築課)、町内会を調査します。 いわゆる、調整区域、広大地、セットバック、計画道路などです。ここでは、都市計画法や建築基準法の知識が必修です。
「動的手段」は、財産や権利に対し、何らかの動きを加えていく手法です。これには「権利の変態」、「帰属先の変態」、「資産の移転」、「資産の組み換え」、「国際的手法」などがあります。
「権利の変態」とは、借地権の設定、信託所有権、種類株式など、資産自体の性格を変えてしまうことをいいます。
「帰属先の変態」とは、株式会社、宗教法人、一般社団法人など、資産の帰属先を、特殊な形態に変えてしまうことです。
「資産の移転」とは、相続以外の方法で、資産を異動させてしまうことです。それには、売買、交換、贈与、信託などがあります。売買や交換は、相続財産から外れます。
贈与は、税法と民法に巻き戻しの規定があります。「資産の組み換え」や「国際的手法」は別の機会に譲ります。
11. 専門家の理想像
相続全般を見渡しながら、相続の総合設計を策定し、それに順応した税金対策が打てる税理士が、優秀な相続の専門家です。単に税金の知識を押し出してくる税理士は、優秀なテクノクラートではあっても、「ゼネラルマネージャー」ではありません。
どんなプロジェクトでも、成功の鍵を握るのは、「ゼネラルマネージャー」の存在です。
そして、その要素をまとめると、
① 相続全般の幅広い知識と経験(相続の総合設計ができる)
② 各種のテクノクラートを見分ける技能(鑑定士、測量士、弁護士等)
③ 住宅業者の専属税理士でないこと⇒結果は住宅を建てましょう。
さらに、「事業収益の向上を図れる技能」、そして、「大型不動産の所有者」であれば、完璧です。後者はご相談の悩みをわが身をもって、分かっているからです。専門家の一部、特に税理士には事業承継対策を、相続税対策と混同している人が多いのです。
しかし、両者は目的は異なります。たしかに、手段において、重なる部分も多いが、目的をしっかり区別して業務に当たらないと事業承継の本質を見失う恐れがあります。
以上が、事業承継と相続に関する考え方となります。